金時日記

日々の感動を書き綴る

沈黙の住人 ②

 

スケボーや子供の遊ぶ声という「外的ストレス」と言おうか、マンションの外の騒音が要因で出ていくことをきめたのだが、建物内はどうだったかと言うと、ワンルームマンションだったので、ほぼ単身者だと思うが、若い入居者の中には日常的に数人が出入りし深夜まで騒いでいる部屋もあったし、カップル二人で住んでいる部屋もあったようで、夜中にベランダに出ると喘ぎ声が聞こえたりもした。

 

こんなことはここに限らず「集合住宅あるある」なのだとは思っていたし、自分に直接被害があるわけでもないので受け流すことができていたが、私がどうしても受け入れられない不快な住人がいた。

 

一階の駐車場の奥には貯水槽やボイラーなどもあり、人は入れないようにはなっているものの、隙間だらけの空間があり、飼い猫なのか野良猫なのかわからない猫がたまにやってきては遊び場にしていた。

するとその猫に餌を与える者もあらわれ、地面に食べ残しのような食品が置かれるようになった。

当然餌をもらえるとなると猫の出現率も上がるわけで、そのうち友猫も来るようになると、ちゃんとしたキャットフードが置かれるようになっていく。

 

はじめは地面に置かれていた餌は気付けばお揃いの餌入れと水入れまで置かれ、完全にペット状態だ。

こうなると猫は毎日現れ日中はここで過ごす暮らしを始める。ここは駐車場であり、子供の遊び場でもあるため、人の出入りが多く、猫は人影を見るたび「にゃ~ぉ にゃ~ぉ」と高い可愛い声で誘き寄せては機嫌をとる。子供などは猫の術中にハマり「ネコちゃんおる、かわいい~!」と寄ってきては持っている菓子などを与えるのだ。

部屋にいるとそのようすが手に取るように聞こえてきて虫唾が走る。

 

猫が居つくようになってから糞尿をするおかげで臭くなったのはもちろん、

誰かが用意した餌入れはひっくり返り、子供たちが動物園気分で与えた菓子と共にそこら中に散乱していて実に汚い。

私はこの駐車場に単車をとめていたのだけど、シートが気持ちいいらしく出掛けようとする時に猫がシートに丸まっている、もしくは足跡がついている。

 

猫も子供もここの住人ではない、なのにここでしたい放題しておいて、自分は居心地のいい寝床に帰っていくのが納得いかないのは言うまでもない。

 

そんなある日出掛けようと駐車場に行くと猫が「みゃ~みゃ~」鳴いていて、見た事のあるここの住人らしき年配のくたびれた男が自転車の横に立って何かしている。見るとキャットフードの缶詰めを開けて餌入れに入れるところだった。

「こいつか!」

と思うと同時に怒りが込み上げてきた。

 

「あんた、そうやって猫に餌与えて、猫にすり寄られて気分いいだろうね。

そんなに猫好きなら部屋で飼いなよ、ちゃんと糞尿の処理をして、環境も整えて、病気のケアもしてあげなよ。

餌だけ与えてイイ思いだけしようなんて都合良過ぎるよ、大人として無責任この上ないクズだね」

それからその男を見るたびそう言いたかったが、結局言えずにいた。

 

 

私の部屋は角部屋ではなかったので両サイドとも部屋があり入居者が居た。

お隣さんとはたまに通路ですれ違うくらいで話したこともないが、隣の部屋の生活音は聞こえるもので、しばらく住んでいるとお隣さんの生活パターンくらいは把握できてしまう。

右隣には70歳くらいの男が住んでいた。

年金暮らしなのだろう、ほぼ部屋に居て仕事をしている様子はないが、一日に何度か自転車で買い物に出掛けている。基本静かだが、酒を飲むと大声で叫んだり、独り言をいったりする、電話の声もデカいので話し声は丸聞こえだ。

たまにイビキが気になることがあるが、隠居生活の割にはちゃんと朝起きて夜は寝る生活をしているようなのであまり害は感じない。

 

左隣には30代くらいの男が住んでいて会社勤めだろう平日は朝8時には自転車で出掛けていく、夜は19時頃に帰宅する。土日は休みのようだ。この男が驚くほど静かなのだ。

部屋を出る時と帰宅した時は玄関ドアの開閉音でわかるのだが、それ以外の生活音はまるで聞こえない、たまに咳やくしゃみでその存在に気付くくらいで、話声はもちろんテレビや掃除機の音も聞いたことはない。

このマンションは洗濯機はベランダに置けるようにはなっているが、洗濯機をおいていないし、ベランダに洗濯物を干しているのも見た事がなく、聞こえるのはエアコンの室外機の音ぐらいで潔いほど生活感のない人なのだ。

静寂を好む私にとってこんな理想の隣人はいないし、もしかして友人になれたら相性はいいかもしれないなどと思えるほどだ。

 

そんなわけで、ご近所的には不満はなかったのだけど、もろもろ外的要因はあるものの

スケボーの音が一番の「引き金」になったといえる。