ノコギリの32枚目の歯を「鬼刃(オニバ)」と呼ぶ
今週のお題「鬼」
まだ幼かった私が鼻をたらしながら暗くなるまでトンボを追いかけていた頃、この国で絶大な国民的人気を誇り今なお名作として後世に語り継がれる「まんが日本昔ばなし」
「日本昔ばなし」は寓話として優れた側面があり、この頃の子供たちは家庭や学校のみならずこの日本昔ばなしから物事の善悪や道徳を会得していたといえる。
1話が10分ほどにまとめられ、ほのぼのとしたコミカルな作風が主体の子供向け番組であるが、そのバリエーションは実に多彩で、時には子供には理解しがたい重厚なテーマを容赦なく放り込んでくる厳しさも持ち合わせていた。
そんな人気番組で不動のレギュラーとして君臨していたのが「やまんば」と「鬼」であることは今更あらためて語るまでもないだろう。
寓話としての昔ばなしにおいて「鬼」はなくてはならない存在で子供に恐怖心を持たせるための重要な役割を担っていたのは確かだ。
「まんが日本昔ばなし」には数々の鬼が登場するのだが、中でも日本中のちびっこどもを震え上がらせ、恐怖のどん底に叩き落したことで今なお語り継がれる屈指のトラウマ鬼話が「牛鬼淵」だ。
「牛鬼淵」(ウシオニブチ)とは今でも三重県に実在する淵の名称で、この辺りには「牛鬼」の名の付く場所が各地に残っており、牛鬼の存在を色濃く残している。
日本昔ばなしの公式発表によると
「牛鬼」とは顔が牛で体が鬼の姿をした恐ろしい者でこの淵に生息しているが、月の明るい夜などは淵を抜け出し「ウオー ウオー」と鳴き歩くのだという。それだけで十二分に怖い鬼であるのに、この「牛鬼」は凶悪な能力も備えている。
昼間に山仕事をしているとそっと忍び寄り、人の影を舐めるのだ。影を舐められた者は高熱を出し黒焦げになって死ぬというのだ。
何なんだこの能力は!これではT治郎でもお手上げではないか
この「牛鬼淵」の回では二人の木こりが登場する。
ベテランの年配木こりと気楽な若手の木こり二人だけで山奥にこもって毎日木を切っていた。ある夜、山小屋でいつものように若手は酒を飲み、年配はノコギリの手入れをしていると、戸口の隙間から中を伺っている怪しい人影に気付く。
年配木こりは直感的にこの辺りでは知られていた「牛鬼」ではないかと疑い、機転を利かせ
「このノコギリの最後のとこに付いとる32枚目の歯はな、特別に鬼刃ちゅうて、
鬼が出てきたら挽き殺すんじゃよ」
すると怪しい男は黙っていなくなるのだが・・・
この話はネットのおかげで今でも見ることができるので、ご覧になりたい方は自己責任でどうぞ。
三重県に今も残る「牛鬼伝説」。これだけ地名として残っていて、詳細な情報もあるのでその存在は確かであり、何より日本昔ばなしで「牛鬼は確かにおった」と常田富士男さんに言われてしまっては、疑う余地がありません。